2023年3月 이모저모通信(第14回)
皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)
当たり前だと思っていたことが当たり前でなくなることは、実際にその時になってみなければわからない。
生まれた国や国籍、人種、民族というすでにある課題を背負う女性たちの物語は、他の女性たちが享受する当たり前を手にするための長い闘いの記録である。ニューヨーク、ブルックリンのユダヤ人街、ウィリアムズバーグから逃避する女性を描いた『アンオーソドックス』は原作者の実体験を基にしたテレビドラマだ。
母親に捨てられたと思い、祖父母に育てられたエスターは厳格なユダヤ教の教えに基づいた生活を送っている。17歳になると学校をやめ、祖父母が決めた相手と見合い結婚をする。美しいドレスをまとい、何日も続く固有の儀式を終え、新婚生活に入るが、義母や共同体からの執拗な干渉を受け、我慢ができなくなる。結婚式に現れた母親が残したドイツ国籍が取得できる書類とパスポートを持ち、ついに空港へ向かう。行先は母親が住むベルリンだった。母親を頼ることもせず、音楽に惹かれ音楽学校に潜んで生活するうちに、友人ができる。多様な国から集まった若者たちとの交流の中で、演奏家になりたかったという夢をかなえたいと思い始める。そこに現れるのが、連れ戻そうとする夫たち。彼らはベルリンに残るユダヤ人虐殺の歴史を巡りながら、エスターを探し当てる。ようやく助けを求め、母親を訪ねると意外な話を聴かされる。演じるシーラ・ハースの演技力と相まって、見ごたえのある作品になっている。結婚式、結婚生活、女性の役割など敬虔なユダヤ教のグループが住む地域の暮らしが、できるだけ忠実に映像の中に差しはさまれている。英語ではなく、イーディッシュ語(東欧のユダヤ人の間で話されていたドイツ語に近い言葉) が日常の会話として使われているのも新鮮だった。
エスターが異なる環境で育っていたなら、演奏家として成功していたかも知れない。音楽学校の奨学金審査を前に、すでに手遅れだと思い知らされるが、ある計画を試してみる。帰ってほしいとすがる夫に、それこそ手遅れだときっぱりと拒否する姿は、何があっても自分は自分らしく生きていくことを選ぶのだという強い決意を感じさせる。
差別的な社会で生まれ育つとき、家族や共同体は自分を守ってくれる砦になるが、時には個人の自由を許さない圧力にもなる。そこに留まり、改革していこうとする女性たちは家族や同族から批判される。そこから出て、孤独な闘いを続ける女性たちは自分のアイデンティティーを尊重してほしいと主張し続けなければならない。
エスターにとっての救いは、自分と同じ道を選んだ母親と自分の価値を認めてくれる仲間の存在だ。
自分らしく生きることが並大抵のことではない女性たちが、人生を切り拓いていく姿に励まされ、心打たれる。ドラマや映画の中で次はどんな女性たちに出会えるのだろうか。
皇甫康子(ふぁんぼかんじゃ)
2018年2月号に最終回を迎えた連載「なんじゃ・カンジャ・言わせてもらえば」の執筆者、皇甫康子さんの新しいコラムがスタートします。皇甫さんの想いとメッセージがイモヂョモ(あれこれ)詰まったコラムをどうぞ。