2017年04月 少しだけ北の国から ~ふくしま@辻より
辻明典(つじあきのり)
<手向けられた花>
今年の3月11日は、仙台におりました。14時46分、町にサイレンが鳴り響くと、歩いていた人たちは自然と立ち止まって、海の方角を向き直し、静かに祈りを捧げておりました。多くの人たちが一斉に、じっと祈りを捧げる時間は、よくよく考えてみると、稀なことのように思います。それだけ、大きな災害に見舞われた土地には、弔いの所作が深く編み込まれているのでしょうか。
その翌日、なんとなしに海を眺めてみたくなり、友人と連れ立って、浜辺をまわっておりました。いつもより少しばかり荒い波を見聞きしながら、砂浜を歩いていると、渚に手向けられた花を見つけました。
波がぎりぎりに届かない、陸と海とのちょうど境目に、手向けられていた花。きっとこの花を供えた人は、亡くなられた方々が、ほんの少しでも長く花を愛でられるようにと、この場所を選んだのでしょう。ここにはいない誰か向けられた、小さな花と、弔いの気持ち。渚で花を手向けた人に思いを馳せながら、私も掌をあわせました。
辻明典(つじあきのり)
協会事業(哲学カフェ、プロジェクト“さんかふぇ”等)に参加していた辻明典さんが、2013年度より故郷である福島県南相馬市に戻り、教員をしています。辻さんからの福島からの便りをどうぞ。