公益財団法人とよなか国際交流協会

リレーコラム(2015年度~)

2018年04月 少しだけ北の国から@福島~震災と暮らしを考える~

辻明典(つじあきのり)

「生活はあるけれど、暮らしはない。」 南相馬市の図書館でひらいた哲学カフェで、現在の宙に浮いたような状況をこのように語ってくれた方がいました。原発事故によって避難する前は、職人として生業を立て、祭りの季節になれば町内で協力してお神楽を執り行い、正月になれば鍋釜を出して節の料理を作り、近所にお裾分けする。きっと小さな子どもの面倒を見ることや、看取りさえも、地域で協力して担ってきたのでしょう。
 でも今は、コンビニの弁当ばかり食べている。料理のお裾分けをしていた町内の人たちも、今は遠くに避難してしまった。お神楽を再開するにしても、人手が足りなくて準備すらできない。みんなで面倒を見ていた子どもの声は、聴こえてこない。
 「暮らし」は、ただ生きていることを指す言葉ではなさそうです。命の世話さえも、サービスに頼るのではなく恊働で担う、そんな豊かな人間関係が何重にも編み込まれていた。それが「暮らし」だった。それを壊されてしまったら、再生は至難の業でしょう。では、どうすればいいのでしょうか。そんなことを、つい考えてしまいます。

辻明典(つじあきのり)

協会事業(哲学カフェ、プロジェクト“さんかふぇ”等)に参加していた辻明典さんが、2013年度より故郷である福島県南相馬市に戻り、教員をしています。辻さんからの福島からの便りをどうぞ。