2020年11月 少しだけ北の国から@福島
辻明典(つじあきのり)
少しだけ北の国から@福島(第22回)
東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故が起きてから、もうすぐ10年。2011年4月に、僕は大阪に引っ越してきて、学生生活を送っていたのですから、月日の流れを感じてしまいます。
先日、浪江町の「請戸」という地区を歩きました。津波にのまれてしまった、海際の集落です。港は整備され、船も戻ってきました。でも港から少しばかり離れてみると、いくつもの墓石が倒れたまま、横たわっている場所があります。もう10年が経とうとしているというのに、お墓を直してあげることもできない。お盆やお彼岸に花を手向けるときはいつも、墓石は倒れたままなのでしょう。当たり前に弔ってあげられないその事実に、胸が詰まりそうになります。人間が生きるなかで大切にしてきたはずの営みが、見過ごされているのではないか。そんな疑問が湧いてきます。10年がたとうとしていて、「こころの復興」という言葉が、よく聞こえてくるようになりました。「こころ」が復興するとはどういうことなのだろうか、とついつい考えてしまいます。
双葉町のかつての目抜き通りは、10年間時が止まったままのようです。曲がったままの電柱。崩れた母屋。落ちたままの瓦。割れたガラス戸。時は流れているのかもしれません。でも、積み重なってはいないのかもしれません。
辻明典(つじあきのり)
協会事業(哲学カフェ、プロジェクト“さんかふぇ”等)に参加していた辻明典さんが、2013年度より故郷である福島県南相馬市に戻り、教員をしています。辻さんからの福島からの便りをどうぞ。